元経済誌編集長、小川益宏さん(84)が、川崎市麻生区の自宅を出たまま行方が分からない認知症の妻を捜し続けている。いつも明るく支えてくれた和子さん(81)がそばにいなくなって1年。「帰って来てほしい」と祈る日々を送る。

昨年1年間に認知症の人が行方不明になった届け出は5年前の2013年(1万322人)の1.6倍になり過去最多を更新した。届け出た一人である小川さんは妻が行方不明になった昨年5月21日を何度も思い返して悔やむ。お昼過ぎ、「お茶がないから買ってくるね」と声をかけてきた妻に付いていくべきだった。

その日は老人ホームの担当者と妻の入居について話し合う予定だった。妻が向かった店は歩いて2、3分の場所にあり、数日前も1人でミカンを買って帰っていた。「老人ホームの話を聞かせたくない思いと、数日前も行っていたことが頭をよぎった。まさか帰って来られないなんて」

2018年5月に行方不明になった時と同じバーバリーのブラウスを着た小川和子さん(81)=家族提供。身長156センチ、やせ形。認知症のため自分の名前を言えない可能性があり、旧姓の「坂井和子」と言うこともある。情報提供は神奈川県警麻生署生活安全課(044・951・0110)まで

2人は1957年に勤めていた会社で出会い、結婚して3人の子どもに恵まれた。小川さんは出版社に転職して経済誌「実業の日本」(休刊)の編集長などを務めた。定年後に出版社を設立すると、和子さんが経理や総務を支えてくれた。

和子さんに症状が表れたのは5年ほど前から。ある夜は自宅にいるのに「家に帰りたい」と言う。小川さんは一緒にバスで最寄り駅まで行ってから声をかけた。「きょうはもう遅いからまた明日にしようか」「そうだね」。認知症になっても、家族の支えで穏やかな暮らしが続いていた。

1年を迎えた5月21日。小川さんは妻が好きだった中華料理店を息子と訪れた。まだ生活が安定しなかった頃、子どもたちだけにご飯を食べさせて「お母さんはおなかいっぱいなんだ」と我慢していた妻の話を息子から聞かされた。この日で気持ちに区切りをつけようと思っていたが、無理だった。

「和子さん、おはよう」。小川さんはリビングにある妻の写真に何度も話しかける。1万枚以上のチラシを配り、くまなく捜したが手がかりはない。保護されていないか問い合わせても「個人情報」を理由にまともに対応してくれない自治体もある。小川さんは「少しでも妻につながる情報があれば教えてほしい」と願っている。

和子さんは身長156センチ。行方不明時はカーキ色のバーバリーのブラウス、黒色のスカートを身につけ、黒色のPRADA(プラダ)の肩がけポーチを持っていた。自分の名前が言えない可能性があり、旧姓の「坂井和子」と言うこともある。情報は神奈川県警麻生署生活安全課(044・951・0110)まで。

毎日新聞より